TeaTown’s blog

持続可能な社会に向けた独り言

新 企業の研究者をめざす皆さんへ by 丸山宏

丸山宏氏の「新 企業の研究者をめざす皆さんへ」を読んでみた。
私自身が企業の研究職を長くやってきただけに、大変面白く読ませていただいた。幾つか個人的な補足も交えて感想を書いてみたいと思う。
まず、この本は、タイトル通り「企業の研究者」を目指す人には必読だと思う。企業の研究者としては、この本に書かれている様々なトピックはとても重要である。特に、日本だけではなく、世界で活躍したい研究者の観点でも参考になる話題が多い。同時に、これから研究所のマネージメントになる人にも大変有用だと思う。研究所のマネージャーがいかに難しい判断をしなければならないのかを把握できる内容になっている。結局簡単な解はないのだが、どのように意思決定すべきなのかという指針は得られるだろう。
第2章の「研究の営み」は、特に大学生の皆さんには有用だろう。プロフェッショナルな研究者として最低限必要な考え方や研究の進め方が簡潔にまとめられている。企業の研究所に入る前に、この章の内容は頭に入れておく必要があると思う。
第3章「コミュニケーション」では、研究者もコミュニケーション能力が必要であることが語られている。コミュニケーションの一つとして、論文執筆があげられているが、その中で論文の書き方としてバックキャスト法というのが紹介されている。、これは、私も昔やっていた手法だ。幾つかネタを考えたらまずは論文の骨子を考えてみる。できれば、イントロくらい書いてしまう。そうして、自分の研究ネタの引き出しに入れておく。こうしておくと、適切なタイミングで論文を出せるようになる。あと、英語力の重要さも指摘されている。日本の研究者にとって英語論文を読むのは問題ないと思うので、一番スキルを上げるべきは、会話能力だろう。まずは、自分の研究内容の会話ができることが重要だが、(後の章にも出てくる)リーダーとして意思決定に関わるためには、そういうコミュニティ内で一定の存在感を出す必要がある。そのためにも英語でのコミュニケーションでは、日本人の美徳とは異なる積極性を出していくことも必要で、昔の私の上司は、海外とやり取りする際は自分で人格を変えていると言っていた。
第4章の「研究者のキャリア」を読んでいて思い出したのは、2004年に米国に短期赴任した際に、赴任先研究所の所長が言っていた言葉である。それは、「研究者といえども今後は7年くらいで専門分野を変える/変わる可能性が高くなるだろう。」というものだった。まさに、非常に速い速度で技術が進歩する現代において、大学を出た時の専門性・専門分野で長い研究者としてのキャリアを全うできるのは稀になりつつあるのだろう。専門分野の変化をむしろチャンスととらえて新たな可能性にチャレンジする姿勢も今後重要になりそうだ。あと、子育ての話が書いてあるが、Work Life Balanceは長く研究者を続けるうえでも重要だ。多少のブランクは研究者キャリアとして長い目で考えると問題はないというのは同感である。むしろ、そういうブランクの時代に、研究者としての良い問題発見や大所高所からの考察が得られるのではないだろうか。
第5章の「リーダーシップ」については、中堅くらいになってリーダーシップを発揮する際に直面する様々な葛藤を提示してくれている。体験しないと実感としては中々分からないかもしれないが、若い時代には分からないマネージメント層の苦悩を少しは感じて欲しいと、かつてその任をやっていた人間としては思うところである。この章にはいくつかCase Studyが載っているが、みな現実にありそうな良い例だと思う。
第6章の知財の件は、アカデミアキャリアではあまりフォーカスが当たらないが、企業の研究者としては大変重要なポイントだ。これは、企業研究者となった時点で直ぐに必要な事項なので、注意深く読むべきである。
科学技術がますます高度になりそれが社会に実装され続けている。このような時代の基盤を支え、更なる発展を促すのが研究者だと思う。まさに、本書のテーマでもある「Research that matters」である。多くの若者が研究者を目指し、社会との接点が大きい企業の研究所で大いに活躍してほしい。そのうえでも本書は研究者を目指す人に取って良い指針を与えてくれるものだと思う。

新 企業の研究者を目指す皆さんへ 表紙

新 企業の研究者を目指す皆さんへ