TeaTown’s blog

持続可能な社会に向けた独り言

脳は予測する機械である

今年になってジェフ・ホーキンス(Jeff Hawkins)の以下の2冊を読んでみた。脳の理論に関する書籍で、もちろん仮説がほとんどだが、かなり本質を捉えている気がする。

 

まず、脳は、過去の記憶から予測をするというのが基本機能だという仮説を展開している。大脳の新皮質は皮質コラムという基本機能の集積からなっていて、この基本機能たる皮質コラムは時系列入力信号から階層的にパターンを記憶し、頻出パターンを抽象的ないわゆる概念として記憶する仕組みらしい。また、同じ時系列パターンに対して多くの皮質コラムが反応し、一種の多数決的な反応をすることにより非常に複雑で柔軟な記憶システムになっているとのことだ。このように複雑な時系列パターンを文脈とともに記憶できるので、次に現れるパターンをうまく予測できる。これにより、脳は、過去に蓄積された時系列パターン(経験)から次(未来)を予測するという機能を持つに至ったということだ。

かなり単純化して書いたので、詳細は是非上の2冊を読んで欲しい。自分は年初に「1000の脳理論」を先に読んでたのだが、「考える脳...」を先に読むほうが順番としては良いと思う。

今まで、なんとなく、意識というのは何か特別な仕組みであり、現在の我々の科学知識の預かり知らぬ世界のものではないかと思っていたが、この一連の書籍を読んでみると、意識も脳の予測機能の産物であると言うことに頷いてしまう。意識というのは、過去の記憶に基づいて、自らが今ここにあり、次の予測ができることに他ならないようだ。

「考える脳...」は2004年頃に書かれたものであることにも驚く。この本で、将来音声認識と画像認識と自動運転ができるようになっていると書かれているが、自動運転以外はすでにできてしまった。自動運転も時間の問題だろう。皮質コラムの仕組みに基づいた予測できる記憶システムが、将来の知的機械であると書かれている。詳細は違うものの、現在の大規模言語モデルを生み出した深層機械学習はその入り口には立っているだろう。Stanford大学がfoundation modelという名前で大規模マルチモーダル機械学習モデルの研究を打ち出しているが、この方向の研究がまさにこのJeffの本に書かれている皮質コラムを用いた記憶機構を用いた知的機械になっていくのではないか。

また、Jeffはこういう知的機械が人間のようである必要はないと書いている。まったく賛同する。人間には、大脳皮質以外に爬虫類以来持っている旧脳があり、さらに物理的な体がある。これらが大脳皮質への入力であるセンサーと出力として動きを生み出すアクチュエーターとなっている。知的機械が同じ仕組みである必要はない。この本にも書いてあるが、全地球的なセンサーと繋がることで、人間にはできないレベルの知的機械となることができる。人間は、そういう人間スケールではできない知的機械を将来使うようになっていくのだろう。そういう意味で、本書は将来の人間社会を拡張する壮大な夢の設計図として見ることができるのではないだろうか。

実に刺激的な2冊であった。