TeaTown’s blog

持続可能な社会に向けた独り言

欲望の資本主義 2022 成長と分配のジレンマを越えて

毎年楽しみにしている「欲望の資本主義」シリーズの2022年版が放映されました。

今回も大変示唆に富んだ内容でした。

www.nhk.jp

最初は、「成長と分配」の話。岸田総理も昨年分配を重要政策として取り上げましたが、時を同じくして中国の習国家主席も「共同富裕」と言い出してます。もっと前から欧米では、新自由主義は失敗して貧富の差が広がりすぎたことから資本主義への見直しの機運が高まっているのは周知の事実ですね。今回の番組では、不公平さが国家間での争いであると一般的に言われているが、そうではなく、富裕層と一般層の間の階級闘争になっているというコメントが紹介されています。中でも、共産党が支配する中国の格差が一段と酷くなっていて、資本主義の歪みが共産党国家で非常に拡大しているのは皮肉なことです。その他、現在の全世界で行なっている景気刺激策も永遠には続かないので、どこかで弾ける可能性があるという警鐘は頭の隅に置いておきたいと思いました。

この番組では、資本主義の再定義に繋がるような様々なアイディアを紹介してくれています。中でも有名なのが、ケイト・ラワースの「ドーナッツ経済学」です。これは、環境上限と社会的土台の間のドーナッツ部分内での循環的な繁栄を求めるというもので、これはまさに現在の気候変動時代に求められる考え方の一つだと思います。今までの成長一点張りの資本主義への修正を迫るもので、GDPからの繁栄のKPIの変更が求められていますね。もう一つ主要な登場人物として出てきたのが、「人新生の資本論」で最近売り出し中の斎藤幸平氏です。彼は、資本主義が内在する成長による環境搾取の構図は止められないので、資本主義ではない経済体制(マルクスが晩年論じていた共産主義ソビエト型のものではない)に移行してコミュニティーによる経済資源の管理をするべきだと説いています。この番組の対談では、相手がトーマス・セドラチェクで、共産主義を生きてきただけに、斉藤氏の共産主義への回帰に大変否定的で、興味深い議論が展開されました。セドラチェクは、現在の資本主義の元で幾らでも制度的な改変により持続的改良が可能なはずだが、共産主義ではそれはできないと断言してました。限られた時間で斉藤氏の論旨が十分伝わっていたかは疑問ですが、概ね両者の問題意識は同じだが、その実現手段には大きな意見の相違があるということだと思います。あと、セドラチェクのコメントで、社会主義共産主義の違いについて以下のような説明がありました。

社会主義 ... 社会の問題点には課税をして対応する。

共産主義 ... 全ての財産を共有し、どう使うかは中央政府が決定する。

中央政府の影響力の差として考えると分かり易い対比になってますね。

その他、スウェーデンのレーン・メイドナー・モデルというのが興味深かったです。これは、同一労働同一賃金という制度で、必然的に弱い企業は市場から淘汰され、そこの従業員は別の生産性の高い企業に転職するという、一種の人材の循環モデルができているというものです。これにより、賃金は日本より伸びていると言うことなので、面白い仕組みですね。岸田総理もこの辺りの仕組みを検討してもいいのではないでしょうか?

あと、Milton Freedmanの孫だというPatri Freedmanという人が出ていました。彼は、経済社会基盤の法律をLinux的にアップデートできるようなモデル都市を作ろうとしているようです。ちょっと調べてみるとseasteadingという公海上に実験都市を作ろうとしているようです。これも新しい社会・経済モデルを構築しようと言う動きの一つと言えるでしょう。今後どうなるか注目しておきたいと思いました。

番組の中で紹介されていたシューペンターの言葉に、

人々の心は自動的に社会主義へと向かっていく

というのがありました。今まさに世界はそういう雰囲気の中にありそうです。

2021年総選挙におけるベーシックインカムの政策について

2021年の衆議院総選挙も中盤に差し掛かり、各党の公約も出揃ったと思います。バラマキと批判された給付関連の政策も各党から色々出ていますが、結局ベーシックインカム(BI)として政策を打ち出したのは、日本維新の会と国民民主党だけでしょうか。(見落としがあったらすみません。)

ちなみに、ここでベーシックインカムというのは、年齢(もちろん性別など)に関係なく全国民に恒久的に給付することを言います。なので、コロナ対策として時限的に給付するのはベーシックインカムではありません。

2党のベーシックインカムに関する公約は以下のページの情報をもとにしています。

日本維新の会 https://o-ishin.jp/policy/pdf/nippondaikaikaku_plan_202109_fix.pdf

国民民主党 https://new-kokumin.jp/wp-content/themes/dpfp/files/DPFP-Policies-Pamphlet2.pdf

国民民主党の政策にはベーシックインカムというキーワードがありますが、給付付き税額控除と書いてあるので、行政コストの点や事後給付である点など色々とベーシックインカムとは異なるので、もっと詳細を知りたいところです。例えば、所得なしの子供でももらえるようになってないとベーシックインカムとは言えないと思いますし。

一方、日本維新の会は、割と詳細なプランを開示しています。ざっとまとめると、

  • 一人当たりの給付額は6〜10万円/月で、高齢者には増額も。
  • BI予算規模は約100兆円/年
  • 各種所得控除を撤廃
  • 生活保護制度は残しつつ、生活扶助部分はBIに置き換え
  • 児童手当はBIに置き換え
  • 現物支給の社会保障(医療、介護、福祉、教育、雇用、など)は据え置き
  • 年金は基礎年金部分をBIに置き換え

となります。

児童手当と老齢基礎年金を上記想定額のBIにするのは大きな異論はないでしょう。生活保護やその他の社会保障をなくすわけではないので、一般的には受け入れやすいやり方だと思います。さらに、所得税を2段階のフラットタックス(BI超え700万以下を10%、それ以上を30%)にして、分離課税をやめて全て総合課税にするというのも、良い案だと思います。一時、岸田首相がぶち上げた株式譲渡益への課税強化策より、こうして全てを総合課税にした方が、若い層の株式投資に水を差すことなく、高所得者からの課税強化による分配を実現できます。総合的に、年金も含めた幅広い、うまく考えられた政策パッケージになっていると思います。

岸田首相も分配が重要だと言っています。世界的に、新自由主義の資本主義により格差が拡大し(トリクルダウンの機能不全)、その格差を是正することが急務となっています。また、世界的なパンデミックにより、危機へのセーフティネットが十分でないことが明らかになりました。(実は日本では大規模地震などの災害で前から言われていたことなのですが。)これらの課題へ対応する政策としてベーシックインカムに近年注目が当たっています。もちろん、ベーシックインカムでこれらの課題を完全に解決できるわけではないですが、現状よりも良い社会になるのではないかと期待されています。

このベーシックインカムを是非日本でも実現して欲しいなと思います。日本維新の会が与党になるかどうか分からないので、選挙の結果与党になった党は、この日本維新の会ベーシックインカム案を是非検討してほしいと思います。

経済評論家山崎氏によるベーシックインカム実現への提案

経済評論家山崎元氏の以下の記事は、ベーシックインカムの実現方法への良い提案が書かれています。

diamond.jp

タイトルだけ見ると、インフレ率2%にするにはベーシックインカムが必要というように読めますが、結果的にそうなるだろうという話で、主眼は富の再配分の手段としてのベーシックインカムが必要であるという議論になっています。

富の再配分の手段なので、財源問題についても富裕層の増税で賄うべきであるという提案です。上記記事では、以下のような具体的な試案をしています。

例えば、一月5万円のベーシックインカムを支給して、国民の中位値よりもリッチな半分の人に一月8万円増税し、中位値よりもプアな半分の人に2万円増税する。そうすれば、リッチからプアに一月3万円の富の移転が完成する。

結果的にリッチ層にとって月3万円の増税というのは特に無理のないレベルではないでしょうか。これで、月5万円のベーシックインカムができるのならなぜやらないのかという気がします。前記事(https://teatown.hatenablog.com/entry/2021/08/09/140610)で書いたカリフォルニア州Stocktonのベーシックインカム実験は500ドルで良い評価結果が出ていますから、月5万円のベーシックインカムは最初の一歩として妥当だと思います。これを基本にして時間をかけて、他の税や年金や社会保障系との整合性を取っていき、BIの月額の増額を図っていくという道筋が見えてきます。

自然災害やまだ来るだろうパンデミックなどを考えると日本は生存リスクの高い社会ですので、ベーシックインカムのもたらす効果は社会のセーフティネットとして非常に重要だと思います。恒久的なベーシックインカムというのを是非実現してもらいたいものです。

 

米国Stocktonでのベーシックインカム実験

アメリカのカリフォルニア州ストックトン(Stockton)市で2019年に行われたベーシックインカム実験の分析が出ています。

gigazine.net

www.theatlantic.com

市の平均年間収入4万6千ドルより少ない層からランダムに選ばれた125人に毎月500ドルを支給するというものでした。

結果的に、勤労意欲が衰えることはなかったと分析されています。これについて、報道する記事のタイトルなどでは「意外な結果」というニュアンスのフレーズが見られますが、そうでしょうか。私には、至極予想通りの結果に見えます。

月500ドルというと日本円で約5万5千円です。皆さんがこの金額をもらえたら働かなくていいとは思いませんよね。このくらいの金額(おそらく10万円/月くらいまで)程度のベーシックインカムでは勤労意欲を低下させるインパクトはほぼないと言っていいのではないかと思います。

むしろ、分析でも指摘されているように、基礎的な出費にあてることができたり、借金を返すことができたり、収入の変動が抑えられることで、それまでと比べると生活への安心感が得られ、精神的な安定にも繋がります。まさに、ベーシックインカムの狙う効果が、このストックトンの実験で現れたと言えそうです。

これからも襲ってくることが予想されるパンデミックの脅威に備える意味でもベーシックインカムの実現が重要となってくると思います。

災害に遭わない住み方への転換を

今年もまた痛ましい災害が起こってしまった。熱海の土石流による被害だ。これは、熱海だけではなく、日本全国で起こりうる災害だと認識する必要がある。このような被害を少なくするために、国、自治体、そして、私たち国民に今一度考えて欲しいのは、

・災害リスクの高いところに住むのをやめる。

・どうしてもそういう場所に住まなければならないのであれば、強靭な躯体の建物(マンションのような集合住宅)に住むことにする。

の2点だ。

恐らく20年くらい前から気象が変わってきたと多くの人が感じ始めたのではないだろうか。特にここ10年は激変したと思う。それ以前の常識はもはやまったく通用しないと考えるべきだろう。

熱海の土石流は、盛り土が原因ではないかとか、メガソーラーの施設も関係あるのではなど、色々な憶測が出ている。それを明らかにすることは大切だが、その原因が分かって対策をすれば、日本全土が安全になるわけではないことを覚えておきたい。そもそも以下の記事にもあるように、災害リスクのあるところ全てに防災対応をするのは限界がある。

www.nikkei.com

根本的には地球全体の異常気象と自然を切り開く開発の両方が要因となって、現在の自然災害を招いている。なので、この二つの要因への対策が必要なのだ。

前者については、世界的にCO2削減などの対策が取られているので、二酸化炭素排出の少ない再生可能エネルギーをメインとしたエネルギー政策を実行するしかない。

問題は、後者である。特に日本では一軒家信仰も根強く、人口増加に伴って宅地がどんどん広がっている。山間の丘陵地などに家が立ち並ぶ光景は日本中どこでも見られる。こういうところが、今後も危ないのである。もはや、そのような危険な場所には脆弱な建物(主に一軒家)は建築できないようにすべきだ。これは行政がすぐにでもやるべきだと思う。ただ、どうしてもそのような地域に住まざるを得ない場合もあるだろう。そのような場合は例外的に鉄筋コンクリートの集合住宅のような強靭な建物にのみ許可を出すというようにすべきだと思う。行政は、行政が責任を持って災害対策をできる場所に居住エリアを策定すべきだろう。

とにかく、毎年のように、自然災害による甚大な被害を見ることになっているが、上記のような要因がある限り、また繰り返されてしまう。災害を制御する治水なども重要ではあるが限界があるし時間的に追いつかない。我々自身の住み方の文化を変える必要があるのだと思う。

欲望の資本主義 特別編 「コロナ2度目の春 霧の中のK字回復」

いつも楽しみにしているNHKBSの「欲望の資本主義」シリーズの最新版が放送された。今回も色々考えさせられた内容だった。

www.nhk.jp

今回は、人の心を切り離した既存の経済モデルから持続可能な社会の裏付けとなる人を考慮した経済モデルへの変化の動きを紹介するのが主題ではないかと思った。近年、格差の極大化で、資本主義に頼った社会の限界が露呈し、政府の果たすべき富の再分配機能の重要さが見直されてきた。そんな背景で必要なのが、本番組で取り上げた心の側面を取り込む経済モデルなのかもしれない。そして、今回、日本の宇沢弘文の社会的共通資本というのが紹介された。資本の論理ではうまく回らない我々の社会の持続性にとって重要なセクターの扱いを考え直す必要がありそうだ。アンドリュー・W・ローが、デカルトのI think therefore I amをもじって、I feel therefore I careと言ったのは今後の社会規範を示唆するものと受け取った。

近年の資本主義に大きく依存した社会では、経済主体として企業にフォーカスが当たりすぎていたと言えるだろう。北欧では駄目な企業は保護しないが、その代わり、失業者へのセーフティーネットが充実しているそうだ。人が中心の社会システムということではないか。こういう話は以前からよく聞くが、デンマークのこのモデルは、Flexicurity(Flexibility+Security)と言われているというのは知らなかった。番組の前半で小幡績が言ったように、「企業を保護するのではなく、人を保護することが重要」というのをきちんと実施しているのが、この北欧モデルと言えると思う。その意味で、コロナ禍というパンデミックで、ある程度緊急措置が必要な点もあったと思うが、日本では支援がやはり企業中心に構築されていて、人への直接的な支援は一度やっただけというあたりは、残念と言うしかない

最後のあたりで、澤上篤人が、投資は短期的な利益のためではなく、良い社会を作るための手段として捉えるべきということと、各自の行動は小さいが大勢がそれをやることで社会が変わるという意思を持って行動することが重要と、彼が自分のファンドでやってきたポリシーを強調していたのが印象に残った。澤上ファンドのアプローチは、最近のESG/SDGs投資の先達だったと言える。

全編を通してかなり登場したアンドリュー・W・ローのAdaptive Marketsは、今後の社会の方向性を占う上で、注目の経済理論になるかもしれない。ダーウィンの自然選択から着想を受けたようで、移り変わる環境に適応することが生き残る、しいては、持続することになるということだと思った。そのうち彼の本もじっくり読んでみたい。今後の理論の発展が楽しみである。

地熱発電

バイデン政権誕生で、温暖化防止のための世界の主要国の二酸化炭素排出削減に向けての動きが加速してきました。とても良い動きだと思います。日本も菅総理が2050年までにCO2排出を実質ゼロにするとの目標を掲げました。

www.businessinsider.jp

そのためには、さまざまな施策を実際に実施する必要があります。発電の方式にはさまざまなものがあり、太陽光発電風力発電はお馴染みのものだと思いますが、そんな中であまり注目が当たってないと思われる発電方式に地熱発電があります。実は、日本は地熱発電のポテンシャルは世界三位なのです。

diamond.jp

そのポテンシャルは以下の資料によると2347万kWhとなってます。

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/022_04_00.pdf

 

それにもかかわらず実際の発電量では世界に遅れをとっています。2018年のデータでは世界のランキングでは10位に止まっているそうです。もったいないですね。

22nd-century.jp

東日本大震災前は国として原子力発電を推進してきたので、地熱発電にはまったく力が入ってなかったのでしょうが、そのあとも中々進まないのは歯痒いところです。

太陽光や風力に比べて24時間常時発電が可能だというのは、原子力発電と似たベースロード電源として使えるので、原子力発電を再開できない現状では、是非推進すべき方式だと思います。

以下の資料によると、日本の原子力発電所は33基あり、総発電量は約3308万kWh相当のようです。地熱発電のポテンシャルは2347万kWhですから、原子力発電の約2/3を賄える可能性があるわけです。

www.jaero.or.jp

地熱発電開発が中々進まないのは、調査に時間がかかるというのがあるようです。ボーリングをしてみないとわからないので、試掘を繰り返す必要があり、すぐに建設ができるわけではないのは仕組み上仕方がない点ですね。そういう点でも中々民間が投資しづらいのかもしれません。

あと、地熱発電所の適地が国立公園だというのが進まない理由の一つにあげられてます。法的には近年緩和され、環境省はむしろ推進したいようですが、地元との交渉に時間がかかると書かれています。もし、これが本当なら、地元側の意識の変化を促したいところです。日本の国立公園の自然環境を守るのために地熱発電の推進にブレーキをかけることで、世界の自然環境が破壊されては、結局日本の自然環境を守ることはできないのですから。国立公園の地権者は国なのですから、地熱発電を推進し、その売電の収益の一部を地元に還元するという策もあるはずです。

今後の温暖化対策を見据えて、日本も2050年にCO2排出ゼロを表明した以上、今までのような腰の引けた対応ではなく、世界をリードする技術革新をして、先頭に立っていくべきでしょう。その意味でも、地熱発電技術は実は日本が多くを保持しているそうですから、今後大いに期待したい分野です。