TeaTown’s blog

持続可能な社会に向けた独り言

MISSION ECONOMY by Mariana Mazzcato

マリアナ・マッツカートのミッション・エコノミーを読んでみました。

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これは、近年盛んになっている資本主義や民主主義など社会のあり方を再定義しようという一連の動き・アイディアの一つです。この本での主張は、政府がミッションを持ち社会の課題解決を共創によりリードすべきというものです。いわば、最近話題のパーパス経営の政府版のような意味合いかと思います。

今まで新自由主義の元で政府の役割は小さい方がよく、政府の仕事もどんどん民営化されてきました。政府の公共の仕事も競争の環境下に置くことでコスト削減され効率化されるというのが代表的な考え方でした。しかし、特に昨今のコロナ禍で政府の役割の重要さを考えたときに、いざ政府主導の大規模なオペレーションをしようとしても、それを外注することになり、かえってうまくいかず非効率なオペレーションになってしまったのは、日本だけではなく世界中で起こったことのようです。筆者は、政府による外注でコンサルだけが栄え、そのつけを納税者が背負っていると批判しています。

本書では、政府の大規模投資について、アポロ計画を例にあげて、その計画の採算だけをみるのではなく、その波及効果も加味して判断することが重要だと強調しています。4章の図2にアポロ計画とそその他の米国政府の支出額の比較がありますが、リーマンショックの際の支出の約1/4に過ぎない額だったようです(更に、戦争の巨大な支出に驚きますが)。そう考えるアポロ計画によりもたらされた新素材、コンピューターの小型化、ソフトウエアの概念、ナビゲーションシステム、プロジェクト管理(マトリックス型)手法、などなど、から波及した大量のイノベーションを考えるととても良い投資だったと言えます。要するに、政府が掲げるムーンショット的プロジェクトはそのプロジェクトだけの採算を考えて行うものではないということですね。逆に、その手のプロジェクトはそれだけの波及効果をもたらすような課題解決型のものである必要があるということになります。

現在世界は気候変動やSDGsなどの世界的な課題を多く抱えています。このような世界的な課題は企業の努力だけで解決できるものではなく、政府と企業とが共通の目標に向かってパートナーシップを形成して解決を図る必要があり、そのためのミッションを政府と企業で分かち合って統合的に実施するということが必要ということです。

他にも、政府が初期投資したものからの十分なリターンを得ていない(国民に還元されていない)ということをGoogleやTeslaへの助成金を例にあげて指摘しています。また、パテントプールやFAANGによるデジタルプラットフォームなどを例に公共財あるいはコモンズ的なものの管理の仕方についても提言し、市民参加型のオープンプラットフォームによる共創が重要だと指摘しています。

本書では、新しい社会の仕組みを考えるに際して、政府の役割の再定義・再認識は避けて通れないということを言いたいのだと思います。株主だけをみている企業だけではなく、公共の観点から国民の富の最大化を図るリーダーシップを取れるのは政府であるということですね。

そうなると、全地球規模でこれをどうやって進めるのかが次の課題でしょうか。国連によりSDGsやCOPなどの世界的なミッションが策定されていますが、各国にそれが降りて行ったときに各国の利害が表に出てきます。世界規模での調整をどのように行えるのかが、人類に課せられた課題だと思います。世界の経済体制や社会体制の再定義が自然と国際協調を促すものになるのが理想だと思います。